日本銀行の植田和男新総裁は10日夜、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策とマイナス金利政策について、いずれも継続が適当との見解を示した。氷見野良三、内田真一の両副総裁とともに就任記者会見を行った。
植田氏は「現状の経済・物価・金融情勢を鑑みると、現行のYCCを継続するということが適当」と述べた。昨年12月の長期金利の許容変動幅拡大など「これまでの措置の効果や市場の動向については、今後も見極めていく必要がある」と指摘。その上で、YCCは「現状では経済にとって最も適切と考えられるイールドカーブの形成を実現するための仕組みだ」とした。
YCC政策の副作用の存在も改めて指摘するとともに、YCCを修正するかどうかは、経済・物価・金融の基調的な動きを踏まえて決めるのが正しいと指摘。持続的・安定的な物価2%の実現が難しい状況であれば、「副作用に配慮しつつ、より持続的な金融緩和の枠組みが何かということを探っていく」と語った。
マイナス金利政策に関しては「現在の強力な金融緩和のベースになっている政策」とし、副作用である金融機関収益へのマイナスの影響も小さくするような工夫がなされているとも説明。「現在の基調的なインフレ率がまだ2%に達していないという判断の下では、継続するのが適当である」との考えを示した。

就任会見に臨む植田和男日銀総裁(4月10日)
Photographer: Kim Kyung-Hoon/Reuters/Bloomberg
戦後初の学者出身の植田総裁は、在任期間が歴代最長の10年余りに及んだ黒田東彦氏の後任として9日に就任した。米欧発の海外経済減速や金融不安への懸念が広がる視界不良の中、黒田氏が果たせなかった賃金上昇を伴う持続的・安定的な2%の物価安定目標の実現を担う。大規模かつ複雑化し、さまざまな副作用が生じている金融緩和策の混乱なき修正も課題となる。
植田総裁がYCCやマイナス金利政策の現状維持が適当との認識を示したことを受け、外国為替市場のドル・円相場は1ドル=133円台までドル高・円安が進んだ。
三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチの井野鉄兵チーフアナリストは、YCC政策の変更についてもう少し踏み込むという期待が肩透かしに終わったためではないかとみる。その上で、マイナス金利の継続も含め基本的には現状維持の姿勢だったと述べた。
植田氏は、これまでの長期にわたる金融緩和政策については、「全体を総合的に評価して、今後どういうふうに歩むべきかというような観点からの点検や検証があってもいい」と述べ、政策委員と議論して決めていきたいとの考えを示した。
一方で、足元の物価動向には「良い動き、良い芽が出てきていることは確かであり、基調的なインフレ率が少し上がってきている」との認識を示した。高水準の賃上げとなっている今年の春闘について「ここまでの動きは喜ばしい結果、動きになっている」とし、こうした動きが持続すれば「より高い基調的なインフレ率、2%の安定的・持続的なインフレの達成につながる可能性は十分ある」との見解を示した。
市場の状況注視
欧米の金融不安に関しては、現時点で日本経済に大きな影響を与えるとはみていないと説明。各国当局の迅速な対応によって市場は落ち着きを取り戻しつつあるとする一方で、「市場における不透明感、不安感が完全に払拭(ふっしょく)された状態ではない」とし、今後の状況を注視すると述べた。
植田氏は会見の冒頭で、「日銀の使命である物価の安定と金融システムの安定の実現に向け、力を尽くしてまいりたい」と語った。長年金融政策を研究対象にし、審議委員として政策運営や中央銀行実務にも関わってきた経験を生かして、「物価の安定の達成というミッションの総仕上げに向けて、議論・実務の両面で尽力してまいりたい」と意欲を示した。
金融庁長官を務めた氷見野氏は、日本の金融システムの現状について、全体として安定しており、ショックに対する一定の頑健性も有していると評価した。一方、米欧の金融不安に関して海外では隠れていたぜい弱性が思いがけない形で表に出る事例が続いたとし、「金融機関との対話やモニタリングに努めるとともに、海外当局との連携にも努めていきたい」と語った。
長く日銀の金融政策の企画・立案に携わってきた内田氏は、金融政策運営について「大事なことは、正確な情勢判断を行い、それに応じて慎重にタイミングを選びながら、的確な政策を行っていくことだ」と指摘。5年間の任期において「2%の物価安定の目標を実現したい」とし、「金融市場で不連続な変化が生じることがないよう、常に市場の安定ということを意識していきたい」との考えを示した。
就任会見に先立ち、植田総裁は岸田文雄首相と官邸で初めて会談した後、政府と日銀の2013年の共同声明について「考え方は適切であって、直ちに見直す必要はないという点で一致した」と記者団に語った。また、「日銀と政府が不確実性が高い現在の情勢の中で、意思疎通を密にして機動的な政策運営を行っていく」ことを確認したという。
共同声明は直ちに見直す必要ない-岸田首相と植田日銀総裁が一致
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(植田総裁と氷見野、内田両副総裁の発言を追加し更新しました)
YCCとマイナス金利は継続適当、現状維持の姿勢示す-植田総裁 - ブルームバーグ
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