
スズキは乗用車シェア首位のインドで、トヨタ自動車と共同開発する電気自動車(EV)を2025年までに発売する。地場のタタ自動車はEVの増産に向け、米フォード・モーターの現地工場の取得を決めている。人口が世界最多となる見通しのインドは30年に二輪などを含めたEV市場が20兆円規模に膨らむとの予測もあり、世界大手や地場を交えた競争が過熱してきた。
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25年までにEVを発売する計画のスズキは、資本業務提携するトヨタと共同開発するEV専用の小型車台(プラットフォーム)を使い、インドに新車種を投入する。多目的スポーツ車(SUV)などの品ぞろえを検討しているもようだ。両社はハイブリッド車(HV)供給などで進めてきた協力をEVにも広げる。
1982年にインド進出したスズキは、同国の乗用車市場で高いシェアを誇ってきた。インド自動車工業会(SIAM)によると21年度の乗用車販売におけるシェアは43.4%で首位。ただ、前年度に比べて4.3ポイント低下した。近年は地元勢や韓国メーカーによる追い上げが続いている。
スズキは足元ではガソリン車でインドで人気のSUVの品ぞろえを増やす戦略だが、市場の急拡大を見据えてEVシフトも急ぐ。310億ルピー(約530億円)を投じて25年までに西部グジャラート州でEVの生産を始めるほか、730億ルピーの投資で26年までに電池工場も稼働させる方針だ。

現時点でEVで先行するのはタタだ。英調査会社LMCオートモーティブによると、インドでのEV販売台数は21年に1万4776台。SUVなどをそろえるタタのシェアは8割に上る。乗用車全体で300万台前後のインドの販売規模を考えるとまだ少ないが、30年のEV販売は65万台程度にまで急増する予測だ。投資助言会社RBSAアドバイザーズによると、二輪なども含めたインドのEV関連市場は30年に1500億ドル(約20兆円)まで膨らむ見込みで競争に拍車がかかる。
タタはEV事業の拡大に向けて21年に、気候変動対策に特化したファンドなどから750億ルピーを段階的に調達すると発表した。EV子会社を新設し、このほど同社を通じて西部にあるフォードの工場の取得を決めた。フォードはインドで完成車生産から撤退する方針を示していた。今後、数カ月をかけて当局の承認をめざすという。
インドの乗用車シェアを急速に伸ばしている韓国・現代自動車も21年12月にEV拡充へインドで400億ルピーを投じると発表。地場大手のマヒンドラ・アンド・マヒンドラは独フォルクスワーゲンからモーターなどEV部品を調達することを5月に発表。世界大手との合従連衡も始まった。

原油輸入による貿易赤字や大気汚染に苦慮するインド政府は、30年までのEV販売比率30%を目標に掲げて補助金政策などを導入。車両価格に加えて充電設備などのインフラ不足も普及の課題だが、デリー首都圏など地方政府主導で増設計画も進む。
インドでは乗用車でのEV販売比率は現在1%に満たない。だが、世界的なEVシフトや脱炭素の波が押し寄せる中、これまでスズキの牙城だった同国の乗用車市場でシェアが大きく変わる可能性がある。
国連によると、インドの人口は23年にも中国を抜いて世界一となる見通しだ。市場の開拓に向けて、新規参入の動きも出てきている。ソフトバンクグループが出資する電動二輪新興のオラ・エレクトリック・モビリティーは15日、24年に自社製の電池を搭載するEVで事業参入する方針を明らかにした。
EV専業で世界トップの米テスラも、イーロン・マスク最高経営責任者が度々インド進出への関心を言及している。現地生産をしないと事実上販売ができないほど輸入車に高関税をかけている印政府と、まず輸入販売で他社に先行できるように関税引き下げを求める駆け引きが続いている。
インドは消費地としての潜在能力だけでなく、電池など基幹部品の供給網、中東やアフリカなどへの輸出拠点としての期待も高い。スズキがグジャラート州でEV生産に乗り出す方針なのも、港に近く輸出がしやすいためだ。EV化に向けた足元の投資動向が10年後のシェアを左右する。
(ムンバイ=花田亮輔、白井咲貴)
スズキ、トヨタとインドでEV 25年までに発売 - 日本経済新聞
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